悪ノリ気質を改善せねば。
友人が晩飯を食べに行こうというので、出かけてきた。
前にも行ったことがある寿司屋。友人はこの前、その店の女店員に声をかけた。メールアドレスを教えて、と言ったが、今は忙しいから今度、と保留されていて、それを今回こそは教えてもらうんだ、と気炎をあげていた。
なんだか羨ましい話だなという思いを抱きながら、寿司屋へ入る。
いつもよりそこそこ混んでいて、注文してから40分くらいは待った。そのおかげで、いろいろサービスしてくれた。待つのは別に苦じゃないので、これはずいぶん徳をした思い。
注文したものが来るまでに、友人はメモ用紙を取り出し、自分のアドレスを書こうとする。でも字がうまく書けないので、書いてくれと僕に渡す。なんだか責任重大な役割を受けた。もし僕が書き間違えてたらどんなことになるか。あるいは、僕がこっそり自分のアドレスを書いたら面白いかもしれない。などと邪な考えをいだいてみる。
注文したものが届き、食べ進むにつれ、店内のお客は減っていった。しまいには、僕ら二人と、奥座敷にいる4人のサラリーマンだけになった。友人の目的の店員さんは布巾でカウンターやテーブルを拭いたりしている。
友人が真っ白なメモ用紙を取り出して声をかける。「あの、メールアドレス教えてくれません?」。その店員さんは、前回、また今度、と答えたから、これは断れないだろう、と見ていたら、「ああ、はい……でも、私の長いから、教えてくれませんか?」と言った。そこで生きてくるのが先ほど書いたメモ。友人はそれを渡す。そこで僕はかなり羨ましくなって、ああ、じゃあ僕も、って自分のアドレスを渡したくなったけれど、悪ノリが過ぎる、という自制心がはたらき、そういうことはせず。
その女店員さん、てきぱきと動いてはきはきしていて、いい人なんだ。
そこで友人はほっとしたのか、やたらとその店員さんに声をかける。大学3年生であることがわかって、何を勉強しているのかという話になり、女店員さんは生命工学部だという。残念。友人は経済学部の出身。まったく反応できない。僕も文学部の人間なので、関わりないんだけど、でも、バイオテクノロジーの方面だというのは察しがつく。遺伝子とかタンパク質とかそんな話をすればあうはずだ。どんな研究しているのか訊いてみたかったけれど、友人が話題をかえてしまった。
とかなんとか、うだうだ書いてみたけれど、結局、羨ましがっているんだな、僕は。でもこれはもとより友人の話だから、口をはさめる事じゃない。眺めてるだけ。