読了

すごくくたびれた男が登場する。
客が残していく疲れや鬱々としたものを、背負い込みながら、タクシードライバーとして日々を送る室田。精神安定剤を飲みながら、なんとか自己を保っている。ある日、客として乗せた男は同業者だった。自分とよく似て人生に疲れている川上。二人のタクシードライバーは、それぞれの思惑を胸に、お互い関わっていく。
うまくいかない人生を呪いたくなるのは仕方ない。室田が起こす行動は、身近にあった存在が、平穏な生活を手にしていく様への苛立ちからだろう。でも、嫌がらせに違いないその行動をとる自分を、事後には必ず非難する。わかってはいるけど、抑えることができないのだ。
暴力的、破壊的な言葉や態度を現す、室田と川上だが、どこかで落ち着くところを求め、過去にこだわりもする。しかし、あと戻りのできない人生がそこにはある。室田と川上を見ていると、哀愁が漂い、妙に切なくなる。
読み応えのある良い作品。