むかしばなし

昨日は、以前一緒に仕事をしていた人の家に遊びに行った。
この人との間柄を手っ取り早く説明すると、踊る大走査線で言う、青島と和久さんの間柄のようなものだと言えるかも(逆にわかりにくいか)。実際そのくらいの年齢差があるし、職場での上下関係もなかった。仕事場にいたときからいろんな話をした。
おかきの詰め合わせのようなものを手みやげにお邪魔して、雑談の時間を過ごした。
このおじさんは僕が仕事を辞めてから1年くらいその職場にいたので、その後の職場の様子を語ることが出来る。
個人経営の事業所であり、ワンマン社長の居る仕事場だった。僕が仕事を辞める頃になると、経営者の身内がちらほらと顔を出すようになり、従業員とのあいだにわりとごたごたが続いていた。僕は他の従業員と仕事内容が違ったし、立場が高い位置にあったので、このごたごたの中に居ることはなく、外から眺めていた。
従業員が入っては辞めていくという光景を見てきた。
このごたごたが落ち着いた頃に僕はやめたのだけど、その後のことをおじさんに聞いてみるとまたいろいろあったらしい。
僕の知っている仕事仲間の顛末がやはり興味深かった。


給料を前借りばかりしていた40歳前の男性は、終わり頃には2ヶ月先の給料までも前借りするようになっていて、ある日そのまま姿を消したらしい。
17歳の少年も働いていたのだけど、経営者と少年の親が喧嘩してしまい、少年はぱたりと仕事場に来なくなったらしい。
その少年とつき合って、そのことで職場でもいろいろとごたごたがあった30歳前の女性は結局他の男性の子供を妊娠して仕事を辞めて結婚したらしい。
専門学校を出たてのトリマーの女の子が2人来ていたのだけど、彼女たちは経営者の身内にいびられ、夏の終わりにそろって辞めていったらしい。
眼鏡をかけたひょろひょろのボーっとした19歳の男が居たのだけど、彼は未だにボーっとした感じで居残っているらしい。
そして、僕も好きではなかった経営者は、先月、ぽっくり亡くなったらしい。


経営者が亡くなったときに発覚したのだが、設備投資をした際などのけっこうな借金があったという。
経営者の身内ということで散々わがままをしていた身内の2人は途方に暮れているらしい。
おそらくこの会社は無くなってしまうのだろう。
そのいろいろな処理を事務員さんがただ1人でやっているらしい。経営者が亡き後、会社のお金の動きなどを把握しているのはこの事務員さん1人しかいないのだ。この事務員さんはこの仕事場に僕が行き始めて間もなく入ってきたので付き合いが長い。また事務員という仕事上、他の従業員とは違う立場なので、僕と同様いろいろなごたごたを外側から見てきた。ごたごたについて、どうしたものかねぇ、とよく話していた気がする。


これらの話を聞いたときに、どうも水村美苗の『本格小説』を読んだときのような、郷愁の念というか、遠い日のことを懐かしく想う気持ちを味わった気がした。
ごたごたが起こるたびに、私も辞めようかな、と口にしていた事務員さんが結局最後まで残って会社の後始末をしているのがなんとも興味深い。