読了

  • 十文字実香 『狐寝入夢虜』 群像6月号

第47回群像新人文学賞受賞作品。
なんだろうな、これ、内容と文体があってないように思う。文体選択のミスだ、とまでは言い切らないけれど、文体は味があっていいんだけど、素直な文体を使えばもっと効果的になったと思う。作品を通して、自分探しやら、孤独を描こうとしているんだろうけど、ちょっと文体がうるさかった。
で、その文体だが、どうも町田康のにおいがする。町田康ほどに洗練されているわけでなく、文章の見た目も違うんだが、どうもあちこちから町田康の影がちらつく。何故だろうな。文章のつなぎ方でも似てるのかな。わからないけど、何となくそういった印象を持った。
最初の方は、落語のような良いリズムが文章にあったんだけど、後半になるといたって平凡な文章になってしまった。この辺が新人か。
でもやっぱり、賞を取るだけあって、センスはあるんだろな。「親は無茶ばかり言う、そして子供の無茶には耳を貸さないものなのである」っていう文章が気に入った。
ただ、この文体で行くのはしんどいと思うな。町田康のような、これでもかという勢いもないし。かといって、極端に文体を変えるわけにもいかないだろうし。次作はそう簡単には出ない印象。
最後に言うが、作品としては、良いなと思えなかった。物語を放り投げるにしても、もうちょっと親切さが欲しい。放り投げるのなら、もっとまとまった作品じゃなければならないと思う。この作品はどうもエピソードというか注視すべきところが、均等に分散していて、まとまりがない感じがする。短い作品だからよけいにそう思う。
あと、物語の演出の手法が見慣れた形ばかりなのも気になる。こうしたら孤独が描けるとか、こうしたら自分探しの形が描けるとか、そういったありきたりの形が見えてしまう。深く響くものが無く、単なるポーズという印象を持ってしまう。
って、新人賞の作品にそこまで求めちゃ駄目なのかな。この僕の文章には間違いなく、ひがみ、妬みが含まれているはず。