読了

あちこちの媒体で書かれたエッセイやら批評文やらの文章を1冊にまとめた散文集。そのためか本としては散漫とした感じはあるが、それは問題でない。
相も変わらず、ため息の出るような素敵な文章を書く。雰囲気に何とも言えない良い味が出てる。そして、この著者には濃密な時間が流れているんだなと思う。もっとこの著者が過ごしてきた時間のことを知りたいと思う。羨ましいのだ。
後半に収録されているものの方が、普通のエッセイのようであり読みやすい。
ある箇所には、やはりそういうことだったかと思える堀江敏幸の創作への姿勢が見える。

特急でも準急でもなく各駅でもない幻の電車。そんな回送電車の位置取りは、じつは私が漠然と夢見ている文学の理想としての《居候》的な身分にほど近い。評論や小説やエッセイ等の諸領域を横断する散文の呼吸。複数のジャンルのなかを単独で生き抜くなどという傲慢な態度からははるかに遠く、それぞれに定められた役割のあいだを縫って、なんとなく余裕のありそうなそぶりを見せるこの間の抜けたダンディズムこそ《居候》の本質であり、回送電車の特質なのだ。

あと、ここでは、なるほどねって唸った。

謎を謎のままとどめておく素直さがあれば、人はもう少し純真でいられるにちがいない。残念ながら、ずっと頭を悩ませてきた疑問に明確な解答が与えられた瞬間、わずかに残されていた子どもの時代の瞳の輝きが消え失せて、誰もがひとつ年をとる。